姉弟がたどったα-1アンチトリプシン欠乏症診断までの軌跡 | 武田薬品
姉弟がたどったα-1アンチトリプシン欠乏症診断までの軌跡
本記事は、実際の患者さんの体験談を紹介しています。特定の患者さんの体験を紹介したものであり、典型的な患者さんの体験を紹介するものではありません。気になる症状や医学的な懸念がある場合、また、適切な診断と治療を受けるためには医療機関を受診ください。
ロリンダさんと弟のビルさんは1歳違いの仲の良い姉弟です。
「しばらく会っていなくても、私が必要としているときに、姉は必ず側にいてくれます」とビルさんは言います。
「弟を守るのは私の役目だといつも思ってきました」とロリンダさんは答えます。
ロリンダさんは、ビルさんが重度の肝疾患を患っていると知ったときは、心が張り裂けそうになりました。
「この病気がどういう経過をたどるかを私自身がよく知っていたので、より一層つらかったです」とロリンダさんは振り返ります。ビルさんも肝臓移植が必要になるだろうと、ロリンダさんは何となく感じていました*。ロリンダさんも2018年に肝臓移植を受けていたからです。ロリンダさんは肝疾患を患っており、α1アンチトリプシン欠乏症(AATD)が原因ということを知ったのも、その時でした。すべての患者さんに当てはまるわけではありませんが、姉弟ともに、この遺伝的疾患と診断されるまでに時間がかかりました。
AATDによる肝疾患は、医療従事者や世間の間でも認知度が低く1 、無症状のまま進行することが少なくありません。肝臓に障害が見られるまで、または確定診断のための検査を受けるまで、患者さんはこの疾患に気がつかないまま過ごすことがあります1,2。
ロリンダさんの場合もそうでした。「振り返ってみれば、AATDによる肝疾患と診断されるまでに、10年以上かかったと思います」
適切な診断
家族の病歴について知らない人もいると話すロリンダさん。
「私が移植手術を受けた後、医師からAATDによる肝疾患と診断されました。言葉が出ませんでした。AATDによる肝疾患が何なのかさえ、知らなかったからです。長い間、血液検査で肝酵素の検査値が高い状態がずっと続いていましたが、誰からもAATDという言葉を聞かされたことはありませんでした」とロリンダさんは振り返ります。
ビルさんも30代のときに脂肪肝と診断されていましたが、それがAATDによる肝疾患と結びつけられることはありませんでした。ロリンダさんとは症状が違っていたので、「姉と同じ病気とはまったく思いませんでした」と言います。ビルさんの主治医も同様でした。しかし、約2年前から、ビルさんの症状が急速に悪化し始めました。
ビルさんの症状はロリンダさんとは違っていましたが、どちらも肝酵素の検査値が高いという共通点がありました。
「妻からは、いつも体調が良くないみたいだし、行動もおかしいと言われていました。舌がうまく回らず、酔っぱらっているみたいだと周囲からも言われました。脚も腫れていき、身体が重く感じ、家の2階へ上がるだけで息切れしていました」
紹介されたがん専門医から診察を受け、ビルさんは骨髄を抽出することになりました。幸い、がんではありませんでしたが、血液検査の結果、肝硬変が確認され、肝臓移植が必要になりました。ビルさんは肝臓移植手術を受け、その後の検査で、姉のロリンダさんと同じAATDによる肝疾患であることが分かりました。
肝臓の状態や体調を保つために1日当たりどれほどの薬を服用しているか、ロリンダさんは私たちに示してくれました。その中には、移植によって必要になった薬もありました。
診断の妨げになっているもの
タケダの消化器系・炎症性疾患のグローバルプログラムリーダーは、疾患の状態や症状が多岐にわたることを認識するのが重要と指摘します。
「α1アンチトリプシンは肺にしか影響しないといった誤解もありますし、肝臓との関連付けの意識が欠けている場合もあります」とニラブ・デサイ(医師)は言います。「それらが過小診断につながることもあります」
現在のところ、AATDによる肝疾患について、肝臓専門医による統一した推奨事項はありません4。しかし、血液検査は比較的容易なため、「肝酵素の検査値が上がった人には、α1アンチトリプシン欠乏症の検査実施を考慮してもよいと思います」とニラブは言います。
現在は、AATDの研究団体がこの推奨事項の策定に向けて活動しています。私たちタケダも、より迅速で正確な診断への道筋を整備すべく、多方面から活動しています、とニラブは説明します。
「AATDの患者さんのいまだ満たされないニーズを広く認識してもらうため、私たちは、さまざまな国で、学会や医療従事者、患者団体に働きかけを行っています。さらに、エビデンスを継続的に積み上げていくことで、遺伝子型と罹患率、バイオマーカー、ナチュラルヒストリー(医学的処置を加えない状態での疾患の自然な経過)、疾患の進行についても、詳しく理解しようとしています」
早期診断のメリット
AATDによる肝疾患を早期に診断することができれば、食事療法など生活習慣に対する早期介入が可能となり、肝障害の進行を遅らせることが期待できます。また、関連する遺伝子変異のリスクがある家族に対して検査を行うことで、疾患の早期発見につながる可能性もあります5,6,7。
ビルさんの娘のプレスリーさんと一緒に、家族の病歴について話し合うロリンダさんとビルさん。プレスリーさんはすでにAATDの検査を実施し、AATDに起因する遺伝子変異が確認されています。
ロリンダさんとビルさんは、AATDによる肝疾患について知った今、家族の病歴をこれまでとは違う視点で見るようになったと語ります。
「母と叔父は、私がAATDによる肝疾患と診断される前に肺疾患で亡くなりました。私がもっと早く診断を受け、この疾患について知っていれば、母と叔父の助けになっただろうか? ビルの助けにもなったのでは?」とロリンダさんは考えることがあります。
ロリンダさんとビルさんは現在、この疾患への意識を高め、同じような状況にある人たちが診断の遅れを回避できるよう、自身の体験を伝える活動を行っています。
「医師の皆さんは本当によくやってくれていると思います。しかし、すべての医師が同じ知識を持っているわけではありません」とロリンダさんは言います。より多くの医師により多くの患者さんを助けてもらうため、「自分たちの声を使って活動しています」と話します。
* 現在のところ、末期の肝障害状態にあるAATDの患者さんにとって、肝臓移植は唯一の治療選択肢です。AATDと診断された患者さんの2.4%に肝臓移植の経験があると推定されています。 ** AATDによる肝疾患および末期の肝疾患の症状は個々に異なる可能性があります。ロリンダさんとビルさんの症状がすべての患者さんに当てはまるわけではありません。
| 「AATDとは」 |
|---|
| α1アンチトリプシン(AAT)は肝細胞で生産される蛋白質で、特定の酵素によるダメージから肺細胞を守る働きがあります8。AATDでは、セルピンA1遺伝子の変異が独自に、または肺疾患と合わせて、肝疾患を引き起こす可能性があります9。Pi*ZZの遺伝子型を持つ人は肝障害の確率が最も高いとされています。なお、この遺伝子型は遺伝子検査で特定できます10。 AATDによる肝疾患では、変異したAATが肝細胞に蓄積します。それがやがては慢性的な肝障害の原因になることがあります。こうした障害には、線維症や肝硬変があり、肝細胞がんに発展することもあります11。 |
- de Serres F, Blanco I. Role of alpha-1 antitrypsin in human health and disease. J Intern Med. 2014;276(4):311-335.
- Narayanan P, Mistry PK. Update on alpha‐1 antitrypsin deficiency in liver disease. Clin Liver Dis (Hoboken). 2020;15(6):228-235.
- Tejwani V, Wang XF, Stoller JK. The natural history of lung function in severe deficiency of alpha-1 antitrypsin following orthotopic liver transplantation: a case report. Chronic Obstr Pulm Dis. 2015;2(4):290-295.
- Hamesch K, Strnad P. Non-invasive assessment and management of liver involvement in adults with alpha-1 antitrypsin deficiency. Chronic Obstr Pulm Dis. 2020;7(3):260-271.
- Teckman JH. Liver disease in alpha-1 antitrypsin deficiency: current understanding and future therapy. COPD. 2013;10(suppl 1):35–43.
- Brantly M, Campos M, Davis AM, et al. Detection of alpha-1 antitrypsin deficiency: the past, present and future. Orphanet J Rare Dis. 2020:15(1):96.
- Healthy eating, healthy liver: the links between nutrition and liver wellness. Global Liver Institute. Accessed March 21, 2025. https://globalliver.org/healthy-eating-healthy-liver-the-links-between-nutrition-and-liver-wellness/
- Strnad P, Mandorfer M, Choudhury G, et al. Fazirsiran for liver disease associated with alpha1-antitrypsin deficiency. N Engl J Med. 2022;387(6):514-524.
- Karatas E, Di-Tommaso S, Dugot-Senant N, Lachaux A, Bouchecareihl M. Overview of alpha-1 antitrypsin deficiency- mediated liver disease. EMJ Hepatol. 2019;7(1):65-79.
- American Thoracic Society; European Respiratory Society. American Thoracic Society/European Respiratory Society statement: standards for the diagnosis and management of individuals with alpha-1 antitrypsin deficiency. Am J Respir Crit Care Med. 2003;168(7):818-900.
- Mitchell EL, Khan Z. Liver disease in alpha-1 antitrypsin deficiency: current approaches and future directions. Curr Pathobiol Rep. 2017;5(3):243-252.