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相手を尊重するコミュニケーションが仕事の質とスピードを上げる | 武田薬品

古澤嘉彦さん

相手を尊重するコミュニケーションが仕事の質とスピードを上げる

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2025年11月7日

古澤嘉彦 ジャパンメディカルオフィス ヘッド 博士(医学)。大学医学部を卒業後、国立精神・神経医療研究センター脳神経内科、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)などを経て、2018年タケダに入社。ジャパンメディカルオフィスで神経内科領域のメディカルエキスパートなどを担当したのち、現職。

古澤嘉彦さん

武田薬品工業株式会社 ジャパンメディカルオフィス ヘッド 古澤嘉彦

神経内科医として、パーキンソン病など難病の診療に従事したのち、より多くの人が関わる創薬に興味を持ち、製薬業界に転職した古澤嘉彦さん。2025年4月からはジャパンメディカルオフィスの ヘッドとして約170人のメンバーをまとめています。組織の役割やリーダーとして重視していること、実践していることについて話を聞きました。

――所属するジャパンメディカルオフィス(JMO)の業務内容について教えてください。

古澤:JMOは、ひとことで言うと「メディカルアフェアーズ」の機能を持つ部署です。メディカルアフェアーズは、営業部門や開発部門と同様に医療従事者と製薬会社の橋渡しをします。その中でも科学的中立の立場から、医薬品が発売される前、そして発売された後も継続的に医薬品の価値を科学的に裏付け、医療現場と患者さんの未来を支える新しい価値を生み出すための戦略をつなぐ役割を担う部門です。具体的には、医薬品を、適切な患者さんに、適切なタイミングで服薬いただけるよう、国内外のタケダの各組織と連携し、医学専門家との科学的交流に基づくエビデンス創出、産官学連携を通じたデータ・デジタル活用、プロモーション/ノンプロモーション資材のレビュー、市販後調査等、業務内容は多岐にわたります。このような業務を通じて患者さんが最善の治療を受けられるように、“薬を育てていく”のが、JMOの仕事です。

――薬を育てていくには、どのようなことが重要だと考えていますか?

古澤:一つは医療のニーズを把握することです。医師との科学的根拠に基づいた議論やコミュニケーションを通じて、患者さんが何に困っているのか、医師が必要としているのはどのような情報かを理解することが求められます。もう一つは、従業員として会社のミッションやビジョンを理解することです。それぞれのニーズを深く理解したうえで、医薬品を通して会社側が成し遂げようとしていることを、医療側に求められていることへ形を整えてアウトプットしていくことが、重要な役割だと考えています。

――2025年4月から組織のヘッドとなり、どのようなことに取り組まれてきましたか?

古澤:私を含めたリーダー9人が“ワンチーム”となって十分なコミュニケーションを取ること、信頼関係を築くことが最も重要だと考えました。オフサイトミーティングを複数回行い、組織は何のために存在するのか、どこを目指すのかということについて議論しました。まず私の考えを紹介したうえで、議論したのですが、活発な議論の一方で、なかなか決定に至らず心配になることもありました。しかし振り返ってみると、いろいろな意見が出ることで、私だけでは欠けてしまう視点もカバーできたので、最終的な意思決定の質は上がったと考えます。

――意見を言いやすい環境というのは、どのようにつくられたのでしょうか?

古澤:実はヘッドになった当初は、リーダーらしくふるまおうとしていました。私にとって理想のリーダーは、常に安定した対応や適切な意思決定ができる、“隙がない”リーダーです。しかし、理想のリーダー像を追い求めすぎるあまり、ありのままの自分と異なってしまうこともありました。そこで、自分らしく自然体で振る舞うほうがよいのではないかと、考えを変えました。今は判断に迷ったときは、素直にメンバーに伝えます。そうすると自然と周りがサポートしてくれるようになり、チーム全体としてうまく回るようになりました。私の肩の力が抜けたことで、周りも自然体になり、意見を言いやすくなったのではないでしょうか。もちろんヘッドとして、私が決断するべき点はしっかり決断し、そのうえでやるべきことと周りに頼ることとの線引きは、しっかりするようにしています。

――信頼関係を築くためには、どのようなことを意識されていますか?

古澤:信頼関係を築くために大切なのは、メンバー、リーダー全員が同じ情報を共有していることです。過去にメンバー間の情報の偏りによって不信感を生んでしまった経験があるので、その点は注意しました。ただし、情報を伝えるタイミングや伝え方はそれぞれのメンバーに合わせた対応が必要だと思っています。例えば、その情報によって強い影響を受けるメンバーには、前もって事前に伝えて、そのメンバーが咀嚼、理解し、フィードバックする時間を設けます。メンバーを尊重するために大事なことだと思っていますし、その後落ち着いて議論することにもつながります。

――ヘッドを務めるなかで、過去のどんな経験が生きていますか?

古澤:神経内科は難病を診ることが多く、確立された治療法がないケースも珍しくありません。しかし、医師として「治療法はありません」と、診療を終えるわけにはいきません。そこから洞察力や想像力を駆使して、患者さんのためにできることを考え、見つけ出さなければなりません。科学的根拠に基づく“サイエンス”を扱う一方で、共感に基づく“アート”的な模索の両方が必要となる世界です。JMOの業務でも同じで、達成しようとしていることが困難で「無理かもしれない」と感じることはありますが、メンバーには「そこからが腕の見せどころ」と伝えています。タケダイズムの価値観である「誠実:正直・公正・不屈」を胸に刻み、メディカルアフェアーズ部門に所属する私たちが患者さんや医療に対してどのように貢献できるのかということを常に考え続けていれば、実際に解決できることがしばしばありますし、考える過程がその後の仕事によい影響を与えることもあります。

先入観を持たず、一人ひとりのカラーを受け入れる


――JMOには、性別・国籍・キャリアなどにおいて、多様なバックグラウンドをもつ社員が所属しています。そうしたメンバーとの関わりについて意識していることはありますか?

古澤嘉彦さん
古澤:JMOのメンバーはリーダー陣も含めて男女比が同じくらいで、医師、アカデミア出身者、研究開発・マーケティング・MRなどの製薬企業他部門出身者といった、さまざまなキャリアを持つメンバーがいます。そうした環境の中で意識しているのは、メンバーに対して先入観を持たず、一人ひとりのカラーを受け入れることです。相手がどういう人かを認識するにあたっては、その人が何を感じてどう考えているのか、どのように行動しているのか、ということが私にとっては全てです。そして自分の知らなかった相手の一面が見えたときに、コミュニケーションの面白さを感じます。

――メンバー同士がよりよいコミュニケーション、連携ができるように、ヘッドとして伝えていることはありますか?

古澤:ヘッドになったときに掲げたことの一つが、相手を尊重することです。私たちはプライベートと同等以上の時間を仕事に使う場面もあります。プライベートだけでなく、仕事も楽しいと感じることでより充実した人生となるのではないかと考えています。人間関係のあり方は人それぞれですが、互いを尊重し合える環境は、多くの人にとって仕事の充実感につながります。相手を尊重しない発言は、その人の人生を傷つけたり、否定したりしているのと同じこと。メンバーには、自分の発言が相手の人生をよりよくすることもネガティブな影響を及ぼすこともあるという意識をもつことが重要だと伝えています。私は、相手を尊重するコミュニケーションは仕事の質やスピードにもポジティブに働くことが多いと考えています。

――医療現場、産官学など、日本のヘルスケアを支えるさまざまな領域があるなかで、製薬会社にはどのような社会的役割が求められているでしょうか。

古澤:革新的な医薬品を創出し患者さんにお届けすることが揺るぎない役割ですが、JMOが担っている、医薬品に関する情報を生み出す・届けることも大事な役割です。さらに医療従事者とともに「明日の医療をつくる」という役割も求められていると考えています。例えば、医薬品とそれに関する情報があっても、患者さんがその医薬品に適応する病気であると診断されなければ、患者さんのもとにその医薬品は届きません。確実に診断されるためには、何が必要なのか。病気が広く認知されること、あるいは検査方法の普及や治療ガイドラインかもしれません。こうしたことを見つけ出し、患者さんが最善の治療を受けられるようにするには何が必要なのかを見つけ出し、医療従事者をサポートしたり、並走したりすることも製薬会社の大きな役割だと考えています。

――その中で、JMOが担う役割は何でしょうか。

古澤:まさにいま話した、明日の医療をつくることは、JMOの主たる役割になり得ると考えています。そのためにシンポジウムやセミナーを開催したり、ガイドラインに科学的根拠として採用されるような、質の高いエビデンスデータを構築するために、医療機関と連携して共同研究を立ち上げたりしています。しかしながら、こうした活動は、数値的に評価することが困難です。それだからこそ、私たちが活動した結果、より多くの患者さんが正しい診断にたどり着いた、より早く治療を受けられるようになったといった成果を私たちが言葉にして説明する必要があると考えています。自分の仕事がどんなことにつながり、最終的にどのような価値をもたらしたのか。それが患者さんにとってはどういう意味を持つのか。深掘りした結果、あまり変化を生み出せていないことが明らかになる可能性もありますが、それであれば真摯に受け止めて反省点を次に生かさなければなりません。メディカルアフェアーズは、日本の製薬会社ではまだ歴史が浅い部門です。しかし、KPIとして表れにくいですが、私たちが行っている、患者さんが最善の治療を受けられるための様々な活動が、医療の発展に役立つと考えています。